スペシャルなディナー


晩飯を食おうと、うどん屋に入ったのです。
店内はまあ普通の造りでした。
貧乏そうなバンドマンが楽器のセッティングを行っていた点を除いて。


「うわぁ」
しばしの硬直の後、幸か不幸かステージ?のまん前のベストポジションに通されてしまうワタシ。

「こいつらは客だ。そして酒が入ってついつい楽器をいじくりはじめてしまったに違いない」
僅かな望みに希望を託すも、やはりそこまでのキチガイはそうそういないわけで、「AUTUMN SONIC in UDONYA!」ライブの幕は上がるのであった。


寒い。


客は俺のほかに2組、計7〜8人。
なんと形容していいか、もののけ姫っぽい和風の曲をぴーひゃら奏でる若者達。
運ばれてくるすき焼き御膳。


なにこの亜空間


ボーカルがなかったのが唯一の救いだが、しかしながら、極めて残念なことに、素人目に見ても、いかなる判断基準をもってしても、ヘタッピなのだ。うん、完全に寒い。以前みたンコ映画のデイアフタートゥモローを思い出した。


なんとか1曲目が終わった。
おざなりの拍手をする隣の席のリーマンズ。
なんだこの恥ずかしさは。
あまつさえMCなんか始めやがった。空気を読めアホウ。
完全無視だ。肉がさめる。いや、拍手をしたら負けかなと思って。
頼むから俺を見るな。もはや席を替わることもできぬ。地獄だ。


というコンボが2曲ほど続き、ようやくラストナンバーになった模様。
飯を食い終えて俺もようやく余裕ができた。おい店員、焼酎もってこい。シラフでいれるかこんな場所。


2分ほど無理やり意識を飛ばす。拷問のような楽しい時間もようやく終わった。なんか肩が重い。「30分後から2ステージ目をやります」
かましい。どうでもいい。


張り詰めた雰囲気から開放され、勘定を払おうと立ち上がったら、当のバンドメンズがこっちにやってきた。まさか。


「ありがとうございました!」


やめてくれ。頼む。そんなキラキラした目で俺を見るな。そのうち「夢」だの「自分探しの旅」など言い出すんじゃねえだろうな。ぶち殺すぞ。俺はおまえらのテリトリー内に生息してはいないのだ。近寄るな。


「やりにくかったでしょう。がんばってねー」


死にたい。


店員のお姉ちゃんに「いつもこんなことやってんの?」と聞いたら、週末だけらしい。そりゃそうだな。「予定表があるのでもらってください」と言われ、2.5度ほど体温が上がったが、気を取り直してもらうことにした。これがあれば地雷を避けれるしな。


バンドの兄ちゃんたちも目の前で一心不乱にすき焼きをむさぼり食うおっさんがいてやりにくかったろうなと思いつつ帰途に着く俺。今日も平和であった。